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好きなことを好きなよーに書き散らし中。 色々オタぎみなので、取り扱いには要注意かも?
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お目覚めおめでとう。
なわけでまたもP3のターン!

今回は独断と偏見によりとある人が出てきます。
うん、好きなんだもん。
BLっぽくはないと思いますが、捏造注意です。
だって接触させたいし!(力説)
あとちょっと流血のようなそうでないような、まあともかく血の描写があるのでダメな人は避けて通ってください。

んでは、おはよー凌くん。




 一週間も寝ていた、とゆかりに告げられ正直驚いた。
 あの不思議な部屋……ベルベットルームに居たのは、ほんの数分のように思えたのに。
 どうりで体のあちこちが固まったように軋んでいるはずだ。
 けれど夢なんてそんなものかもしれない、ともどこかで納得している自分がいる。
 夢の中での時間の感覚など、ひどく曖昧だからだ。
 一晩で数年を過ごせたり、その逆にたった数分しか経っていなかったり。
 それでなくとも、現実の中でさえ時間の感覚が薄れる事があるのだから。夢の中、なんて何が起こってもおかしくない。

 ゆかりが去った後、看護師がやって来て軽く足をマッサージしてくれたのが数分前。
 今の凌は右腕に点滴の針が刺さり、それが終わるのを待っている状態だった。
 最初は横になっていたのだが、また眠り込んでしまいそうな気がしてベッドの上に座る体勢に変えた。
 点滴が終わってから帰宅してもいいという話なので、体を起こしていないと夜まで寝てしまいそうな気がしたのだ。

 眠るのは嫌いじゃない。
 まどろみに沈んでいるその間は、何も考えずに感じずに済むから。
 夢も見ないほどの深い眠りが、昔から好きだった。

 何を見るともなしに顔を向けている窓の外は、穏やかに晴れ渡っていた。
 春の陽射しだ。真夏ほど強くなく、けれど明るい。
 意識を失う前は葉桜になりかけだった桜の木からは、すっかり花は見られなかった。
 花が散る様を眺めるのは嫌いじゃなかったから、見られなかったことが少し残念だと思う。

 そういえば転入して早々に一週間も欠席してしまったことになるのか。
 思い至り、軽く溜め息を吐く。
 ただでさえ転校生、というだけで少なからず何らかの話題のタネにされるというのに。
 入学早々欠席、なんてどんな噂が立っていることやら。

「……どうでもいいか」

 呟いたのは、いつからか口癖のように染みついてしまっている言葉だった。
 様々なものが凌の前を、横を、後ろを、通り過ぎていくその度に口にする言葉。
 まるで言い聞かせるかのように。
 この街には、学校には一応卒業まで籍を置くつもりではいるのだが、それもどうなるかなど分からないと考えている自分がいる。
 誰に気兼ねすることのない寮暮らしは正直ありがたくはあるので、出来るだけ長くいられればいい。

「あ」

 などと雑多な物事を考えつつまだ終わらないかと点滴を見やった凌は、小さく声をあげた。
 結論から言えば点滴はまだ終わっていなかった。
 吊り下げられたパックからは一定の間隔で液体が落ちてきている。
 だが凌が声を上げたのはそれが理由ではなかった。

「逆流して、る?」

 腕に刺さった針、さらにそこから伸びるチューブが鮮やかな赤色に染まっていた。
 それはゆっくりと上へと侵食していく。
 ややあってその赤が自身の血液だと気付き、これは看護師を呼んだ方がいいのかもしれない、という考えに至った。
 凌は立ち上がり、右手で点滴のかけられたフック(下に車輪付きで簡単に動かせる、正式名称は分からなかった)をがらがらと押し歩き出した。

 意識のないままで連れてこられたから、ナースステーションの場所も知らないのだが。
 まあ何とかなるだろう、と廊下を進みだした。
 そういえば個室を宛がってもらっていたが、やはり事情が事情だけに他者と一緒にされなかったのだろうか。
 倒れる前に起きたことは、忘れていない。
 ゆかりの言葉から察するに、その辺りの説明は今後の事も含めて寮でされるのだろう。
 何となく、色々込み入った話になりそうだと感じていた。

「っ、と……」

 さすがに一週間寝ていただけあって、足元が覚束ない。
 ふらつきそうになり、慌てて廊下の壁に取り付けられている手すりを掴んだ。
 だが次の瞬間目の前が白くなり、ああヤバイと頭を振った。
 思ったより調子が悪い。頭の中が回っているようだった。
 ここで倒れたりしたら入院が伸びるんじゃなかろうか。
 それはイヤだな、と足に力を入れようとした、その時。

「オイ、大丈夫か」
「……っ」
「ゆっくりしゃがめ。出来るか」

 誰かに、腕を掴まれた。
 視界は効かないのだが、感覚が残っているおかげで分かる。
 声をかけてきた人物が誰かは分からない。
 だがその手のひらが自分を気遣ってくれていることは、伝わってきた。
 男の声だ。低い、けれど年は自分とそう変わらないのかもしれない、と何となく思う。
 確認は出来ないけれど今の自分が酷い顔色をしているだろうことは分かるので、おそらく心配して声をかけてきてくれたのだろう。

 自身の体調を把握しきれていなかった。
 伊達や酔狂で一週間寝込んでいたわけではないらしい。
 情けなく思いつつ返事が出来る状態ではなかったので、男の助けを借りつつしゃがみ込んだ。
 行儀は良くないと分かっているが、そのままぺたりと座り込む。
 体勢が楽になったからか、先より少しマシになった気がした。

「ありがとう、ござい、ます」
「いや。平気……そうじゃねえな、その顔色じゃ」
「……すいません」
「看護師呼んでくる。座ってられるか」
「はい」

 動かさない方がいいと判断したのだろう男の提案は、凌にとってありがたいものだった。
 頷くと、腕を掴んだままだった男の手が離れていった。
 そうしているうちに、白くなっていた視界が段々と晴れてくる。
 凌は遠ざかっていく足音の方へと顔を向けた。
 ニット帽に、コートの男だった。
 顔は見ていないが、背格好から察するにあまり年齢は変わらないだろう。
 かけられた言葉や落ち着いた態度からすると幾らか上だろうが。

 しっかりした足取りは、病人や怪我人のものには見えない。
 誰かの見舞いにでも訪れた所だったか。
 不可抗力とは言えちゃんと礼が言えなかった。また会えるだろうか。
 そんな事を考えながら、凌は彼の声を頭の中で反芻していた。次に会った時に、気づけるように。

 余談だが、やってきた看護師に逆流した点滴を見せるとそういう時はナースコール押してね、と言われすっかりその存在を忘失していたことに気付かされた。


END





病院退院前に荒垣さんと接点もたせてみた。
完全に趣味ですありがとうございました。
荒垣さんは世話好きだからこういう状況下だったら絶対手ぇかしてくれると思うんだ…!

点滴の逆流は普通にビビります。ナースステーションまで行ったらナースコール押してねと言われたのは実話です。(阿呆)
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